第二節 数学的な考え方と問題解決方略の指導

 

4-2-1 問題から問題へ

 

 竹内と沢田は、『問題から問題へ』[i]の中で、「問題の発展的な扱いによる授業」を提案している。

 ある問題を解決すると、解かれた問題は、必ず新しいいくつかの問題を生む。そのそれぞれの問題がまた解かれようとする。そういった「問題の自己増殖」つまり「問題から問題へ」の経過や飛躍を彼らは「問題の発展」と名付けている。

「最初の問題P0を解決して、ある知見(知識)K0が得られた。次にP0K0から、新しい問題P11P12が立てられて、それらを解決して知見K11K12、・・・が加えられた。以下左図のように進行する。問題を発展させ、それらを解くことによって得られた知見は、それぞれに先行する知見と比べて、必ずしも新しいものとは限らないが、一般的には先行のものより一般化された、あるいはより深められたものであろう。

また同じ問題を出発点としても、その発展のさせ方は一通りではなく多様であろう。またより意義のある(数学的に価値のある)発展のさせ方はその人の数学的力量や数学的洞察力に、あるいはまた偶然性によることであろう。」(『問題から問題へ』p15-16

 

 このような問題から問題へと移り変わる、問題意識の変容を指導に持ち込んだ例として、「問題づくり」の指導がある。生徒が「原問題」を解決した後、「この問題から思いついた新しい問題をいろいろつくってみなさい」と指示する。生徒は条件、場面や題材を変えたり、一般化させたりする。

 

 

 

 

 このような問題を原問題とするとき、以下のような反応が考えられる。

(a) 放物線を円、楕円、双曲線などにする。

(b) ・放物線上の点(2,1)に着目して、定点を曲線上の点から曲線外の点に変える。

  ・定点を与えず、傾きを与える

  ・定点、傾きのいずれも与えない。

 

問題づくりを通して、生徒は二次曲線と接線の問題場面における問題解決スキーマを構成することができる。判別式=0という性質や、解法の一貫性を発見的に捉えることができる。

 

 こういった経験の上で、例えば、球と接する平面の式を求めるときに、円と直線に類比することもできるようになる。「次数を下げる」といったストラテジーも、構築されたスキーマがあってはじめて、使うことができる。

 

 4-2-2 what-if-notの視点

 

 「問題づくり」だけが、「問題から問題へ」の指導ではないだろう。教師の発問によって、発展的な考え方へと誘導することもできる。問題から問題を生み出すための変数の役割となるのが、数学的な考え方であるし、ポリアのストラテジーである。「類比させてみよう」「一般化させてみよう」「対称性がなりたつとしたらどうだろうか」といった問いが自ら発するようになれば、数学的な考え方やストラテジーが生徒に根付いたといえるのではないだろうか。

 

 「問題の発展的扱い」の有力な方法として、S.Brown & W.MarionWhat if not technique[ii]がある。ある問題を解決したところで、

(1)   その問題、定理の性質、条件を列挙する。これをもとに、次のようにして新しい問題を作っていくのである。

(2)   上の各性質を「もしその性質でなかったらどうなるか」と各性質を否定した質問をしていくのである。

(3)   この各質問を順次解析し、そこから得られた新しい問題にアタックしていく。

@     まず性質を一つずつ「そうでなかったら」と変えていって新しい問題を作り解決を試みる。

A     いくつかの性質を同時に「これらがもしそうでなかったら」として、より複雑な問題の発見に発展させていく。

 

 問題には、条件という変数がいくつもある(結論も含めて)。そこで、その中の一つの変数だけを変えてみる。これによって問題がどう変わるかをみる。

 このように変数のいくつかを固定し、他を変えてみる。時には結論をある条件と入れ替えてみる(独立変数と従属変数を入れ替えることに当たる)のである。したがって、これは問題に対して、関数的な考えによる発展的な考え方を行うことであると同時に、その問題を含む問題群に対するスキーマを構築することであると考えられる。

 

 このようにして、発見的な考え方をもとに、新しい問題を作り解決していくと、考え方やストラテジーを組織化・構造化することができる。ストラテジーや考え方を説明的に教授されるよりも、そのときに必要な条件などをじっくり考えるようになり、問題解決能力の向上に結びつくであろうと思われる。

 



[i]竹内芳男・沢田利夫(昭和60)『問題から問題へ』初版 第2刷 東洋館出版社

[ii] Stephan Brown & Walter Marion “What if not?” Mathematics Teaching 46 (Spring 1969), pp.38-45, 51, (Spring 1970), pp.9-17