第四章 発見的方法に基づく問題解決方略の指導
第一節 発見的指導の重要性
4-1-1ストラテジーのアルゴリズム化
塚原[i]は、高校生の数学的な考え方を伸ばすために、ストラテジーを以下の
14個にまとめている。
@ draw a figure, diagram(絵,図を書く)
A inductive thinking(帰納的思考)
B analogy(類推)
C fewer variables(変数を少なくする)
D specialization, generalization(特殊化,一般化)
E reformation(再形式化)
F auxiliary problem(補助問題)
G divide into cases(場合分け)
H go back to definition(定義に戻る)
I set up equations(等式を作る)
J indirect proof(間接証明)
K work backwards(逆向きにたどる)
L symmetry(シンメトリー)
M logical reasoning(論理的推論)
彼は著書『高校数学による発見的問題解決法』のなかで、このストラテジーの中から
10個のストラテジーを選び、例題を分類している。
例えば、Symmetryの章では、
問題7.1
三角形ABCにおいて、tanA, tanB, tanCの値がすべて整数であるとき、
それらの値を求めよ。
問題7.2
問題7.3
問題7.4
問題7.5
問題7.6
問題7.7 A(0,0,6), B(0,0,20)とする。 xy平面上の点P(x, y, 0)で、
∠APB≧30°をみたすものの全体が作る図形の面積を求めよ。
問題7.8
問題7.9
以上のような9個の例を挙げている。この中には、対称性から計算を省くものや、最大値を取る形、対称性を活かした置換といったものが含まれており、それぞれが独自の解法を必要としている。一口で「対称性を活かす」の名のもとに、すべての問題を解決できるわけではない。
問題解決の経験が豊富にある問題解決者であれば、「対称性を活かす」という題目のもと、なんとか解決に辿りつけるかもしれない。しかしそれには、それぞれの問題場面や基礎知識をもとにした解決が必要であることを示唆しているのである。したがって、逆に、問題解決の経験が少ない、もしくは学力下位の問題解決者になると、「対称性を活かした」解法を覚えることになり、ストラテジーはアルゴリズムになってしまうのである。
このことから、ノンルーチンな場面での問題解決の能力を増すためにストラテジーを指導しているはずが、皮肉なことに、そのストラテジーがアルゴリズムになってしまい、問題解決能力を育てることにつながっていないことが分かる。学力下位群では、問題場面でのスキーマや知識が不足しているために、ストラテジーをうまく使いこなせないのであろう。
4-1-2 発見的な方略指導の重要性
問題解決ストラテジーのリストを受容的に学習しても、学力下位群では効果が望めないことは、第二章でも触れている。ストラテジーを受容的に学習して、効果があるかどうかは、その生徒の問題解決スキーマや知識に依存している。したがって、問題解決スキーマや数学的な考え方と一緒に、問題解決を通して、発見的な学習をしていくことが必要と考えられる。