(3) 本例に見られる「ポリアの発見的方法」とメタ認知的活動
[問題1]の解決の中で、ポリアの「いかにして問題を解くか」のリスト(発見学のリスト)
にあるような方法を太字で示し、解決の過程を幾何学的に記した。ポリアのこれらの方法群と、
この幾何学的表記は、本例のなかで何を示唆しているのだろうか。
1からDまでの図で分かるように、問題を把握し、計画を立てる活動は、基本的に上から
下へと進んでいく。予想を立てながら、妥当な論理的連結を図っている。ところが、いざ、
その予想が正しいかどうかを試す段になると、時折、下から上への演繹的な動きが見られる。
これは、予測が正しいか点検するために、具体的な演算を試行しているからではないだろうか。
ネルソンとナレンス(Nelson&Narens,1994)[i]は、
モニタリング(監視)とは、メタレベル(meta-level)
が対象レベル(object-level)から情報を得ることであり、
コントロールとはメタレベルが対象レベルを修正する
ことであると説明している。この考えにもとづき作成
したメタ認知的活動のモデル(三宮,1995)[ii]が、右図である。
メタ認知的モニタリングには、「ここが理解できていない」
といった「感覚feeling」、「この問題なら解けそうだ」とい
った予想(prediction)」、「この考え方でいいのか」といった
「点検(checking)」、「よくできている」といった
「評価(evaluation, assessment)」などがふくまれている。
算数・数学でいえば、数を代入してみたり、特殊化してみたり、
といった具体化など演繹的活動をはじめとする考え方、実証したり演算したりという活動がこの範疇に含まれるだろう。
C’やEの活動が中心になる。
また、メタ認知的コントロールには、「完璧に理解しよう」といった、認知の「目標設定(goal setting)」、
「簡単なところから始めよう」といった方略をはじめとする「計画(planning)」、
「この考え方ではだめだから、別の考え方をあてはめよう」といった「修正(revision)」などが含まれる。
従って本例では、@からDの精神状位がここに当てはまるだろう。
ポリアは『いかにして問題を解くか』の中において問題解決の過程を以下の4つの相に区分している。
「第一に、問題を理解しなければならない。
第二に、データと未知のものとの関連を見いだせ。直接の関連が見いだせないなら、
補助問題を考えるべきかもしれない。そして、解決の計画を立てなければならない。
第三に、計画を実行せよ。
第四に、得られた解を検討せよ。」[iii]
第一は、@・A。第二は、B〜D。第三はEのようにそれぞれ当てはまっている。第四に
該当するものは、ここでは例を挙げていないが、E’のようなものを作ることもできるであろう。
また、ポリアは、この4つの区分に沿って、問題解決の様々な方針のリストを配置している。
その中には一連の「発見法」や、難しい問題を解き進むための経験法(rules of thumb)が含まれている。
この発見法のリストは、メタ認知的活動を推進する力(Guiding Forces)として働くだけでなく、問題意識
をさらに深めていくための指針にもなっているように思われる。
[i] Nelson,T.O. &
Narens, L. 1994 Why investigate metacognition? In J. Metcalfe & A.P. Shimamura (Eds.) ,
Metacognition. MIT Press.
pp.1-25
[ii] 三宮真智子 1995 メタ認知を促すコミュニケーション演習の試み「討論編」――教育実習事前指導としての教育工学演習から――.
鳴門教育大学学校教育研究センター紀要,9, 53-61
[iii] Polya, G.
(1945,1973) How to solve it. 2nd Edition. Princeton,NJ : Princeton University Press.
(垣内賢信訳 ,1955,『いかにして問題をとくか』,丸善 第11版)