第二節 問題解決方略指導に関する先行研究

 

2-2-1ストラテジーの発見学習と有意味受容学習

 

(1) 発見学習と有意味受容学習

 

 ここまで、問題解決ストラテジーとはどんなものか、様々な観点から述べてきた。それでは、どのようなストラテジーの指導方法が有効なのであろうか。学習心理学では、発見学習と有意味受容学習がよく知られており、以下のように定義されている。[i]

「有意味学習の成立は、学習者の認知構造に関連付けを与えるように学習材料を提示するかどうかに依存しており、この関連付けを与えるにはどのような教授法を採用すればよいのか、についての見解には対立したものがある。その1つは、発見学習を積極的に推奨するブルーナー(Bruner,J. S.)に代表されるものである。彼は、学習者が自分で探求的に問題を解決することを通じて学習すべき内容が認知構造の中に位置すると考えられる。これに対して、オースベル(Ausubel, D. P.)は、具体的な操作期以降においては、膨大な有意味な言語的内容を個人に学習させるのに、発見学習を用いることは一般に不必要であり、不適切であると考える。発見学習は多くの場合、動機付けの点でもすぐれ、学習内容の理解・把持が優れていることは認めるが、それらの特徴は教師による言語的な提示によっても十分可能であると考える。この教授法が有意味受容学習である。この教授は学習されるべきすべての内容が明瞭に最終形態として提示されるものであり、学習者はその内容を各自の認知構造に関連付けながら、受容していくのである。」

「(発見学習において)自分で発見したルールは転移が大であるか、発見学習により獲得された知識は把持されやすいかなどの点についても、他の学習方法との比較実験がなされてきたが結論は出ていない

  ・・・

 いかなる特性をもった教科で、どの発達段階のこどもに、どんな反応を学習させるときに、発見学習が有効なのか、また、他の学習方法との組み合わせ方などの研究が必要である。」

 このような指摘は、学習指導一般に関するものであるが、問題解決ストラテジーの指導においても、発見的な学習と受容的な学習の差異を比較検討する必要がある。

 

(2) 横山正夫氏の研究事例

 

 

 横山[ii]は、小学校6年生を対象に、指導方法の異なる説明的指導プログラムと発見的指導プログラムにより、

問題解決ストラテジーの指導をし、その指導効果を調べた。

 

テキスト ボックス: 説明的指導プログラム(8時間)
@	特徴:最初に例題をもとにストラテジーを教え問題にあてはめさせる。(ストラテジー→問題)
A	内容::4ストラテジーを各2時間ずつ指導し、例題→ストラテジーの説明→問題へのあてはめ→ストラテジーを用いた問題の解決→ストラテジーの使用の確認→まとめ,という構成とする。

テキスト ボックス: 発見的指導プログラム(8時間)
@	特徴:最初に問題を与え、問題を解く過程で多様なストラテジーを発見させる(問題→ストラテジー)
A	内容:説明群と同様の問題を使用し、問題→各自の方法による問題の解決→解決方法への振り返り→多様な解決方法をストラテジーとしてまとめる、という構成とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  この結果、学力上位群では、説明群・発見群・統制群ともに得点が向上した。学力中位群では、説明群・発見群ともに得点が向上したが、統制群では変化しなかった。学力下位群では、発見群のみ得点が向上し、説明群・統制群では変化しなかった。

 学力上位群は、ストラテジー指導が行われなくても自力で問題解決ができたと考えられる。学力中位群では、ストラテジー指導が有効であったが、指導方法による差はなかったと考えられる。下位群では、説明的な指導ではストラテジーの理解が表面的であったと考えられる。それに比べて発見的な指導では、自己の奇襲知識や経験と関連させながら、問題解決ができたと考えられる。」(再び横山)

 

 しかしながら、布川[iii]によると、「例えば、横山(この指導事例)の逆向きに考えるストラテジーの事後テストの問題は試行検討のストラテジーによっても解決可能であるにも関わらず、彼の示すデータによれば、こうした手続きをとった子供はいない。あるいは、整理されたリストを作るストラテジーの事後テストの問題に対して、簡単な場合から考えるストラテジーの(場合分け)を適用することも可能であるが、こうした手続きをとった子供も報告されていない。」

 つまり、この問題のカテゴリーを特定し、しかもその問題に対して適切な行動までも特定してしまっている。ストラテジーを指導しようとしながら、ある種のスキーマを形成している疑いがある。

 

 いずれにしても、「スキーマとストラテジーの指導」は、上位群では説明的な授業でも発見的な学習でも関係ないが、下位群では発見的学習のほうが効果があるのは確かである。

 

 

2-2-2 問題解決方略の使用過程に関する上位下位分析 

 

 石田[iv]は、問題解決方略の指導を3年間受けた小学校6年生(愛知県額田郡幸田町立幸田小学校)を対象に問題解決テストを行い、その成績に基づいて抽出された上位群と下位群の子供の問題解決過程について、以下のような結果をまとめた。(「パターン発見」方略の使用過程)

@     下位群は上位群よりも「パターン発見」方略の選択自体が少なかった。

A     図形の規則性発見問題の解決過程において、上位群の「パターン発見」方略の実行手続き(順序よく調べて、変わり方のきまりを見つける手順)はルーチン化されていた。

B     図形の規則性発見問題の解決過程において、素朴な解決方法を見直して効率的な解法を工夫する中で図の構造に着目してパターンを発見し、それを解決に利用する子供が下位群に見られた。

C     文章題の解決過程において、上位群同様に下位群の「表を作る」方略の実行手続き(条件に合う場合を順々に調べる手順)はルーチン化されていた。

D     文章題の解決過程において、「パターン発見」方略を使用するために、変化のパターンが現れるように新しい変数を探索する子供が上位群に見られた。

E     下位群の子供は不適切な方略を選択すると適切な方略に変更することが困難であった。

 

これらの結果から、問題解決方略の指導方法の改善にあたって、次のようなことを述べている。

 @ 問題解決方略の指導は数学的な見方・考え方の指導と関連づけて行う。

 A「評価・改善」活動を重視した問題解決方略の指導を行う。

 B いろいろなパターンを見つけることができるように指導する。

 C パターン発見のために新しい変数を設定することを指導する。

 D 見つけたパターンの意味を考えることを指導する。

 

 @では、「「パターン発見」方略を使って問題を解決するには、どんな問題場面でその方略を使用したらよいかわらかなければならない。そのためには、「パターン発見」方略の使用の背後には「依存関係にある数量を特定して、その数量の変化や対応の規則性を調べることにより問題を解決する」という「関数的な考え」があることを理解できるように指導することが大切である。」と説明されている。

 

 

 

 

 



[i] 衣田新(監修)『新・教育心理学事典』,金子書房, 1983

[ii] 横山正夫, 「算数科における問題解決ストラテジーの指導に関する研究」,日本数学教育学会, 数学教育学論究 73 vol.56 , 1991 pp.3-17

[iii]布川和彦 「学校数学におけるストラテジー指導に関わる問題点について−ストラテジー指導に対する批判を手がかりとした新しい方向性の探求−」,筑波大学教育学系論集 16 1,1991 , pp.83-94

[iv] 石田淳一,「長期間の問題解決方略の指導を受けた小学6年生の問題解決方略の使用に関する上位−下位分析−「パターン発見」方略の使用過程を中心に−」, 日本数学教育学会, 数学教育学論究 69 ,1998 ,pp.3-19