第一章 問題解決

 

第一節 問題解決の位置づけと必要性

 

1-1-1 NCTMスタンダードから

 

  NCTMはスタンダードの中で、生徒のための新しい目標の3つめに

3. 数学的問題解決者となる  各生徒の問題解決能力を開発することは、もし、彼または彼女が生産的市民になろうとするなら、必須である。我々は、An Agenda for Action{National Council of Teachers of Mathematics 1980}の第1勧告「問題解決は、学校数学の焦点とならなければならない。」(p.2)を強く支持する。この能力を開発するために、生徒は解決に何時間、何日、更に何週間もかかる問題に取り組む必要がある。独りで成し遂げるべき比較的簡単な問題もあるだろうが、小グループもしくはクラス全体の協力による学習を含むべき問題もある。また、正解のないオープンエンドな問題もあれば、定式化すべき問題もある。」[i]と記しており、各学年(スタンダードのなかでは、幼稚園から第4学年、第5学年から第8学年、第9学年から第12学年の3段階に分けている)に10個ずつ掲げられたスタンダードのうち、問題解決を1番めのスタンダードに位置づけている。

 

 例えば、第5学年から第8学年では、以下のようなことが述べられている。(p.79)

「 第5学年から第8学年では、数学カリキュラムは、生徒が次のことができるように、探求(inqury)と応用の方法としての問題解決の数多くの様々な経験を積むべきである。

     数学の内容を調べ(investigate)理解するために問題解決アプローチを使う

     数学内外の場面から問題を定式化する。

     多段階問題およびノンルーティンな問題に力点を置きながら、問題を解くための多様な方略を開発し、応用する。

     もとの問題場面に照らして結果を確かめ(verify)、解釈する。

     解法や方略を新しい場面に一般化する。

     数学を有意味に利用する際の自信(confidence)を得る。            」

 

 

 また、別のページには、こう記されている。(p.11)

「問題を解決するに先立って、式の操作やアルゴリズムの練習を重視する伝統的な教授は、知識がしばしば問題から現れるという事実を無視している。このことは、計算技能が文章題に優先すべきという期待の代わりに、問題を伴っての経験が計算能力の開発を助けることを示唆している。従って、教授に対する現在の方略は逆転される必要があるであろう。つまり、知識は問題との経験から出現すべきなのである。この方法によって、生徒は特定の概念や手順を適用する必要性を認識し、後になって知識を再構成するための強力な概念的基礎を持つことになるであろう。」

 

 生徒の活動は、問題場面(situation:状況)から生まれ、主体的に数学に熱中することで学習が進んでいく。そして、問題を解決する経験の中で、知識を獲得していくと強調している。

 

1-1-2 我が国の問題解決

 

(1) 変遷

 我が国では、明治時代以降西洋の数学教育を導入していたが、第二次大戦前までは和算の内容も多少は残っていた。1905年(明治38年)の国定「黒表紙教科書」の使用から、1935年(昭和10)に「緑表紙教科書」が誕生するまでの約30余年間、多くの算術や数学に関する指導や研究が行われていたが、問題解決についても「四則応用問題」の解決から漸次発展し、実生活と関連の深い「事実問題」の重視へと変わっていることが分かった。

 1945年以降は、問題解決という言葉が定着しつつあるものの、1960年代までは、問題解決を文章題の解決と混同した理論及び実践研究が行われていた。しかし、1977年の島田茂編著の『数学のオープンエンドアプローチ』[ii]においては、既に問題解決におけるオープンな場面からの新しい問題解決のアプローチが展開されていた。

 

(2) 学習指導要領における問題解決の取り扱い

 

 平成元年告示の小学校学習指導要領では、「指導計画の作成と各学年にわたる内容の取り扱い」において、

テキスト ボックス: 2. 第2の内容の取り扱いについては、次の事項に配慮する必要がある。
(1)	児童が自ら考える場を適宜設け、児童の発達段階や学習の達成状況に応じた具体的な操作や思考実験などの活動ができるようにし、論理的な思考力や直感力を漸次育成するようにすること。

 

 

 

 

 

    平成11年告示の新学習指導要領のなかでは、

テキスト ボックス: 第3	指導計画の作成と各学年にわたる内容の取り扱い
 1 指導計画の作成に当たっては、次の事項に配慮するものとする。
(2) 論理的な思考力や直感力、問題解決の能力を育成するため、実生活における様々な事象との関連を図りつつ、作業的・体験的な活動など算数的活動を積極的に取り入れるようにすること。

 

 

 

 

 

 

     指導要領解説[iii]の中では、以下のように述べられている。

「 今回の改訂の特色として、自ら学び、自ら考えるなど生きる力を育成することを挙げることができる。このことに関連して、算数では、実生活における様々な事象との関連を考慮しつつ、児童がゆとりをもって学ぶことの楽しさを味わいながら作業的・体験的な活動など算数的活動に取り組み、数量や図形についての意味を理解し、数学的に考える力を育て、それらを活用していけるようにすることを重視した。

 特に、今回の改訂の趣旨の実現をめざして、問題解決の能力を育成すること、実生活との関連を図ること、算数的活動を積極的に取り入れることを示した。

  ・・・

 以上のように、問題の解決にかかわって情報の収集、選択、処理、活用、創造などの諸活動をさせるためには、筋道を立て、見通しをもって考えることなどが必要になる。また、その過程では、論理的な思考力や直感力が一層重要な働きをすると考えられる。

 なお、問題解決の能力を一層育成する観点から、次の事柄について配慮する必要がある。

@ 問題の発見や構成、問題を自分のものとする段階の指導を充実する。

A 問題を解決するのに必要な情報を集めたり、条件を整理したりすることができるようにする。

B 自力解決の場と時間を確保し、見通しをもち自ら考える活動が十分できるようにする。

C 作業的・体験的な活動など算数的活動を積極的に取り入れて学習活動を多様化し、児童の発想や仕方が生かされ、学習の楽しさや充実感が味わえるようにする。

D 児童が、各自の自力解決について情報交換したり、まなびあったりする場を充実し、自分のよさに気付いたり、ほかの人のよさに学んだりできるようにし、学習集団が互いの学びの場として機能できるようにする。  」

 



[i] 能田伸彦,清水静海,吉川成夫監修 『21世紀への学校数学の創造 米国NCTMによる「学校数学におけるカリキュラムと評価のスタンダード」筑波出版会 1997 p.7

[ii]島田茂, 『算数・数学科のオープンエンドアプローチ』東洋館出版社, 1995

 同名 , みずうみ書房, 1977(絶版)の再版

[iii] 文部省,『小学校学習指導要領解説 算数編』,東洋館出版社,1999 ,pp167-170