問題の理解と表象
問題解決の過程には、解決者がその問題をどのように理解しているかということが大きく影響する。
ニューウェルらの定式化において、問題空間は問題ごとに決定されているものではなく、解決者による
表象を指している。解決者の表彰、すなわち問題空間が異なっていれば同じ問題であっても解決には当然
違いが生じることが予想されるのである。このことは、同型の問題(problem isomorphs)の研究によって
明らかにされている。
5本の手を持つ、宇宙から来た3匹の怪獣が、3つの水晶の球を持っている。量子力学的特性のため、 怪獣も球も、大・中・小の3つの大きさになっている。中くらいの怪獣は小さい球を、小さい怪獣は大き い球を、大きい怪獣は中くらいの球を持っている。この状況は怪獣たちの鋭い釣り合いの感覚に反していた。 そこで、怪獣たちが各々自分の大きさと釣り合った球を持った状態になるように、球を渡しあうことにした。 怪獣たちの以下のような習慣のため、問題の解決は難しくなっていた。 ・
1回に1つの球しか手渡せない。 ・
怪獣が2つの球を持っているとき、大きいほうしか手渡せない。 ・
渡そうとしている球よりも大きい球を持っている怪獣には手渡せない。 どのような手順によれば怪獣たちはこの問題を解決することができるだろうか?
ヒマラヤの山奥のある村では、非常に現代的で洗練された茶会が行われている。この茶会には、亭主1人と 客2人しか出席できない。客は2人でなければならない。客がやってきて席につくと、亭主は3つの動作をし てみせる。ヒマラヤ人たちの伝統にもとづいた高貴さの順に並べると、3つの動作は以下の通りである。 ・火をたく(一番格が低い)。 ・茶をつぐ。 ・詩を吟ずる(一番格が高い)。 茶会の間、誰でも、別の人に、「あなたのされている動作をかわりに行ってよろしいでしょうか」と聞くこと ができる。ただし、相手から受け継ぐことができるのは、相手のしている動作の中で一番格の低い動作だけで ある。しかも、すでに自分が何か動作を行っている場合には、自分の動作の中で一番格の低い動作より格の高い ものを受け継ぐことはできない。慣習によればこの茶会は、亭主から2人のうち年長のほうの客へ3つの動作が すべて引き渡された時点で終了しなければならない。さて、この茶会はどのようにすれば完了できるだろうか。
上の2問は、サイモンとヘイズ(Simon&Hayes)によって考案された「怪獣」問題および
「茶会」問題である。一見すると非常にややこしい問題に見えるが、2つの問題は「ハノイの塔」
と論理的にまったく同一の構造を持った問題である。
サイモンとヘイズはこれらの問題を用い、実験と、UNDERSTANDというプログラムによる
シュミレーションとを行っている。
その結果同型の問題であっても、微妙な違いによって表象が異なり、問題の難しさが異なること
が示された。一方で、問題の理解と表象がどのようになされるかは、被験者の持っている知識に依存
している。つまり、知識をあまり必要とされないと考えられた比較的単純な問題であっても、その解決
の過程には知識が大きく関わってくることがわかってきたのである。
Simon, H.A., & Hayes, J.R. 1976 The understanding process: Problem isomorphs.
Cognitive Psychology, 8 , 165-190